2006.10.1発行WIND FROM FUTURE Vol.15
2006.10.01発行
目次
■ハイブリッド・コントローラーQ&A特集
HISTORY OF S ~SEIHO小史~
第15回「経営者探し」
手付金を払う契約書を数日後にひかえ、私は社長に連絡した。
「社長が来なくても、誰か代理をよこしてください。課長でもよかですよ。後はこちらでやりますから。社長には正式な調印のとき、印鑑だけもって来てもらいます」
そして、その前日、再度確認の電話を入れた。はっきりと引き受けたはずの彼が、曖昧な口調になっていた。いつもの精気が感じられなかた。
「私もこの年になって…新しい土地で、また苦労するのもなあ、大石さん…」
意味のわからんことをゴチャゴチャ言うばかり。数日の間に心境に変化が起きたにちがいなかった。今さら何を言うとるんじゃと思った。
おぼろげながら、後にわかったことだが、社長の急変は九州松下の筋から何か言われてのことらしい。
「わしが断ったら…あんた困るじゃろうな」 社長はすまなさそうだった。
「いや、わしは困りませんよ。長崎に二年もおりますから、それなりに顔もあります。社長が白紙撤回すると言われるのなら、二、三、心あたりがありますから、そっちあたってみまっさ」
思わず強がりを言ったものの、すぐに心あたりはなかった。この日のうちに決断できる人。私は三つの段階で人選を考えた。
第一段階は地元長崎の人。次なる段階は全国的に広げて探す。そして第三は、第一、第二段階でも適当な人が見つからない場合は、私自身が会社を辞めてでもやる。第一段階では造船会社の社長がいた。だがしかし、その社長にモータの下請けの話しをもって行っても、八百屋に行って酒を注文するようなものだろう。モチはモチ屋である。
そうなってくると、第二段階の人選とならざるをえないが、今日中に代わりの経営者を探すのは、至難の技に思えた。この仕事に食指を動かし、一五〇〇万円の出資を、即決できる人。長崎以外の九州の知人には見あたらなかった。大阪ならば四人ほど考えられた。電話を入れた。三人に断られ、最後の社長に電話を入れた。
「急ぐのやろ。大石さん、すまんが夜の十二時ごろまで待てますのか。銀行と相談して、返事するよって」
設備会社の経営者だった。私はその社長から、長崎と本社の工場に、数億円の機械設備を買っていた。十時半ごろ、自宅に電話してきた。
「受けまっさ」
社長は言った。
「それなら、明朝、一番の飛行機で来てください。福岡空港まで、わし、迎えに出ますよって」
すでに十月も中旬だった。結局一日遅れて手付金を払って、契約した。正月から稼働させるには、二カ月余りしか残ってなかった。
問題の土地は、農業振興法の規制を受ける、いわゆる「農振地域」の中にある農地だった。原則として建物を建てるわけにはいかない。建物を建てるには、農地転用の申請をして、長崎県を経由して、最終的には九州農政局の許可を得なければならない。九州農政局は、高来町農業委員会の結論と町と県当局の意見書を持って、諾否を示すことになるのだから、時間がかかることおびただしい。それを待っていたのでは、年明けの操業開始はおぼつかない。またもや、難問が現れた。
SEASONS COLUM -風と住まい-
『人も建物も自然の一部』
アトリエを開設し5年、戸建て住宅を中心に設計活動を行っています。
風と住まいに関してまずは個人的な体験から。
わたしの生まれ育った家は、昔ながらの木造在来住宅、竹と赤土を使ったこまい壁と漆喰の家でした。そんな昔ながらの家で高校時代から数年間アレルギー鼻炎に悩まされました。しかし大学卒業後、新建材だらけの賃貸マンションに越したら症状は少なくなりました。現在、新建材等でシックハウス等、騒がれていることを考えるとなんだかアベコベな話です。
アレルギーの原因は床下や天井裏に発生していただろうカビやダニで、新建材だらけの賃貸マンションに越したら、原因となったカビとダニが極端に少なく なったと思われます。
左官壁や無垢の木材等、昔ながらの素材や技術が見直されていますが、シックハウスやアレルギーの危険性はそんなところにも潜んでいます。別に昔ながらの在来木造住宅が悪いといっているのではなく、要は風通しが問題だということです。
風は様々なところで必要であり、重要なものです。
最近のニュースでは、高松塚古墳の壁画がカビにやられているという話が聞こえてきています。
壁画をまもるために現在の科学技術を結集した空調システムで、厳格に管理していてもそのような事態がおこっています。個人的には風が原因ではないかとにらんでいます。自身で設計している建築に関しても、高気密高断熱の考え方で温熱環境を管理する建築より多少暑かったり寒かったりするけれど、日光や風がたくさん入ってくる、より自然が近く感じられる建築に興味が向いていきます。人も自然の一部なのです。
あらゆるところで風は流れていなければならないでしょう。
建築にとっても、わたしたちの精神についても同様ではないかと思います。
高田宏明アトリエ 一級建築士事務所 高田 宏明 氏