2008.10.21発行WIND FROM FUTURE Vol.23
2008.10.21発行
目次
■天井裏換気「風之介ブロワー24」早分かり解説
■天井裏換気による効果検証(京都府立大学 尾崎教授にて共同解析)
■ジアス遮熱比較実験 Q&A
HISTORY OF S ~SEIHO小史~
第23回「大前翁の指摘」
ここで床下換気扇の着想に、ふれておかねばなるまい。それは、私がまだ九州松下の営業をしていた五十一年秋にさかのぼる。
ある東京出張の折、杉並に懐かしい人を訪ねた。その人は、平成六年四月二十六日故人となられた大前正二さんで、当時は三井物産重役を退いたばかりだった。
大前さんは福岡支店にいた三十年前、私の実家の離れに家族で住んでいた。大前夫人は、福岡銀行の富重元専務夫人の姉だった。私と同じ年格好子供がいた。重役退任のニュースを知り、懐かしさが込みあげてきた。
出張先から電話を入れた。大前さんも懐かしかったとみえて、
「ぜひ家に寄るように」
と誘う。さっそくうかがった。
「筑紫の御曹子がきた。早く上がれ」
大前翁は長い空白の歳月を気にもとめず、私を心から歓待してくれた。それから、私は東京に出張するたびに大前家を訪ねた。大前家が定宿となった。
あるとき、翁の将棋の相手をしていると、
「大石君は本職は何かね」
と、尋ねる。
「私はモーター屋です。モーター以外は知りません」
こう答えると、
「モーターの力で縁の下の湿気は何とかならんのかね」
おもしろいことを言う。
「どうして、またそんなことを」
私が尋ね返すと、大前さんは朝の散歩で、いつも心にとめていることを、ポツポツと語り始めた。
五キロのコースを、大前翁が犬を連れて歩いていると、あちこちで家を新築している現場に出くわした。どの柱も一〇センチほどしかなく、昔に比べてひどく細いことにびっくりした。
「最近の家は、昔に比べると、柱がみな小さくなった。そのうえ床下を風が吹き抜けるような構造になっていないから、床下から柱が腐ってきて、十年ともちませんぜ」
大工は言った。
そこまで話して翁は、
「サラリーマンが四十代の後半に家を建てたとするわな。ちょうど定年になるころに、家にガタがくる。退職金というものは老後のために取っておくもの。
家のために、それに手をつけにゃならんというような事態になっとるそうだが、君はどう思うかね。けしからんとは思わんかね」
大前さんは、本気で憤っていた。
SEASONS COLUM -風と住まい-
『ストック住宅の活用に向けて』
日本の住宅政策は、近年まで住宅供給とGNP(国民総生産)の上昇を目標に掲げ、スクラップアンドビルドを前提として新築住宅の生産を優先してきました。
そのため、新築・建替え中心の住宅市場が形成され、中古住宅市場やリフォーム市場は未整備な状況です。
また、高耐久・高品質な住宅建設は少なく、日本の住宅寿命(30年弱)は欧米の1/3以下と極めて短い状況です。
しかし、地球温暖化対策(省エネルギーや長寿命化によるCO2排出量の削減)が喫緊の課題である現在は、環境負荷の軽減および持続可能な都市造りなどの必要性から、ライフサイクルアセスメント(LCA)を基にしたストック住宅の活用へ政策転換されています。
LCAとは、建築が生涯期間(材料生産、建設、運用、廃棄)を通じて環境に与える負荷の総量を予測する手法であり、ライフサイクルエネルギー(LCE:一生涯に消費したエネルギー消費量)、ライフサイクルCO2(LCCO2:一生涯に排出したCO2の排出量)などが提案されています。
他にも住宅性能表示制度やCASBEEなどの住宅の性能評価手法が施行されており、新築住宅のみならず中古住宅もその性能を定量的な数値で表すことが求められています。住宅性能の向上(環境負荷の軽減)には、省エネルギーと長寿命化が非常に重要であり、住宅の換気はそのための有効な方法であると考えられます。
京都府立大学教授 工学博士 尾崎 明仁 氏